jscsrevent’s blog

狂犬病臨床研究会の活動を報告します

世界狂犬病デー2022 in Japan「みんなで話そう、狂犬病予防注射」基調講演で出された質問への回答

質問に対する回答について

 

当日、基調講演について3つの質問がありました。

以下に回答します。

質問1. 野生動物に狂犬病がまん延している場合でも、70%のワクチン接種率で流行は防げるのですか?

  • 中嶋先生の回答

米国では、野生動物のマングース、アライグマ、キツネ、コウモリなどのコロニーで狂犬病が流行しています。これをまん延といってよいかどうかわかりません。米国では犬も多数飼育されていますが、犬ではまん延はしていないと考えています。日本と米国では方法論が異なるかもしれませんが、米国のある地域のデータでは7割の飼い犬に狂犬病予防注射をすることで犬での流行は抑えられていると聞いています。

  • 井上顧問の回答

犬の狂犬病が流行している地域の犬に70%のワクチン接種が行われていれば流行の拡大が阻止されることが報告されていますが、ワクチン接種を何年も継続してようやく収束に向かうことを忘れてはなりません。日本は他の施策とあわせて7年をかけて清浄化を達成しました。ワクチン接種されていない30%の犬は狂犬病に感受性の動物であることも記憶にとどめておいて下さい。

野生動物についてはワクチン接種の効果についてほとんど知見がありません。また、ワクチンを接種することは大変困難であると考えられます。野生動物に流行している狂犬病を経口ワクチンによって制圧することに成功した事例があります((北米のコヨーテと西欧のキツネなど)。毎年、経口ワクチンを大量に流行地域に空中散布して長い年月をかけて制圧に成功しています。動物種で異なるようですが、経口ワクチンで40%ぐらいが免疫を獲得できるようです。なお、アメリカ大陸で流行しているアライグマについても経口ワクチンが開発されていますが流行の終息に成功していません。拡大を阻止することには効果があるようです。台湾でイタチアナグマ狂犬病が見つかっていますが、既存の経口ワクチンは食性が異なっていたため食べなかったため、新しくイタチアナグマが食べるワクチンを開発したと聞いています。

 

質問2.  感染拡大の早期封じ込めに緊急ワクチン接種が有効とのことですが、人用、犬用それぞれどれくらいのワクチンの備蓄があるのでしょうか。今の体制で緊急ワクチン接種はすぐに行えるのでしょうか。

  • 中嶋先生の回答

先ほど井上顧問の話された野生動物へのワクチンについて日本に準備があるのかどうかは、今現在知るところではありませんが、常日頃から野生動物用のワクチンを準備しておくことは実際問題として困難であると考えます。もしかしたら、そういったことが起こるかもしれないと考えて、対応を用意しておくことが実際的かと思います。

  • 杉山副会長から

現在は人用ワクチンの国内生産はされていません。グラクソスミスクライン社の「ラビピュール」というワクチンが輸入されています。本数は約5万本程度ということです。人用については、緊急時に備えて流通コントロールしているということです。

国内の動物用ワクチンについては平成30年度の農林水産省による国家検定合格数量より、5,068,970頭分のワクチンが製造されています。一方当該年度の注射数(済票交付数)は4,441,826頭でしたので、備蓄ではありませんが627,114頭分のワクチンが余った計算になります。しかし、同年度の登録数は6,226,615頭ですので全頭が接種という仮定では逆に不足していることになってしまいます。

 

質問3. これまで日本国内で猫の狂犬病発症例はありますか?

  • 佐藤会長から

上木英人氏著の東京狂犬病流行誌によると、昭和22年から31年までの間に

ネコ 15頭

ラマ 2頭(昭和19年上の動物園内のつがい)

ウマ 2頭

計19頭が報告されています。いずれも犬からの感染です。

これらは東京都のデータです。他の道府県については不明です。